いやまあ、何と言うか、メルカリ経由で大変に楽しそうな発注を受けてしまったのだ。
筆者は恐竜が大好きではあるのだが、実は怪獣も同じくらい大好きであり、ゴジラもウルトラも愛している。恐竜の魅力は現生生物にはない壮大さと驚異の生態、あるいはそこに至る進化の神秘にあるわけだが、その驚異に反応して人が想像し創造したのが怪獣であり、当然ながら恐竜の魅力をそのまま継承している。恐竜は実在したが怪獣はただの妄想じゃないかと侮ることなかれ、妄想だからこそ、魅力の芯の部分が誇張され明確化されているわけで、より魅力的な場合もあり得る。
我々は妄想を軽視し、実在を過度にありがたがる傾向があるが、そもそも恐竜化石は実在しても復元図はあくまで想像であり妄想である。いかにも恐ろしげなティラノサウルスのあの風貌さえ我々の悪夢の具現化だろう。陸生動物が牙を剝き出していてはヨダレの損失で脱水症状を引き起こすから、ティラノ氏も口元はしっかり唇を閉じていたはずで、そうなると顔つきはまったく変わってくる。羽毛の可能性を考えれば、無毛の猫や無羽毛の鶏などが普通の猫や鶏のイメージからかけ離れているように、実際の恐竜も我々が抱く恐竜像とはまったく違っていたかもしれない。
昨今は恐竜図鑑でも無反省に牙を剥きだした復元図を控える傾向にはあるようだが、唇でしっかり口元を保護した新ティラノ氏のご尊顔は、それはそれで興味深くもありつまらなくもある。科学心の部分で興味深さを感じ、ロマンの部分でつまらなく感じているわけだが、要はそのバランスが大事なのだろう。
科学と妄想のバランス。ここではたと我々は気づくわけだが、おいちょっと待て。「科学」と「妄想」は安易に対義語と考えてしまっていいものか。いやいやそうではあるまい。人類ヒト種の妄想体系は、それはそれで人類進化解析の重要な手掛かりには違いなく、アカデミックな科学的アプローチも盛んに行われている。恐竜と怪獣の違いは、「科学」と「妄想」の対立などという水と油の関係ではあり得ない。これは単に「考古学」と「考現学」、あるいは「古生物学」と「文化人類学」という、ともに同じ科学の、ほんのわずかなジャンル違いに過ぎないのではないか。
とまあ、長々と語ってしまったが、メルカリ経由で「ウルトラ怪獣を作ってくれないか」という発注を受けたのであった。ありがたやありがたや。はい。喜んで作ります、と言いたくても言えないのは著作権というものがあるからである。こうなるといきなり経済学の話ですな。はい。
ふう、とか、ぽく、なら何とかなりますが要するに無版権の「パチモン怪獣」ということになりますが。やんわりお断りするつもりでそのように伝えると「パチモン怪獣も大好き」とおっしゃる。おお、そうですかい。そういうことならお受けしようではないか。作ってこましてやろうじゃないか。
お題はブラックキングとベロクロンとバキシム。ははあ、発注者様はその世代でしたか。「ウルトラマン」(1967年~)の放送中に産まれ、再放送と「ウルトラファイト」と朝日ソノラマの各種書籍やソノシートで乳幼児期を過ごし、幼稚園で「帰ってきたウルトラマン」(1972年~)という英雄の帰還に喝采を上げた筆者よりはほんの少し下の世代ということになる。
ではまずブラックキングから。ご存じの向きもあろうが、用心棒怪獣の別名を持つこの怪獣は、鳴り物入りで始まった割には視聴率で伸び悩み、しかもヒロインが別番組出演のために降板などと迷走する「帰ってきたウルトラマン」の挽回策というかテコ入れのために、ウルトラマンとウルトラセブンが助けに来るという禁じ手をかました(後のウルトラ兄弟設定の元になった)エピソードに登場する。すなわち作劇的にも視聴率貢献度的にも最強怪獣として設定された。
それまでのウルトラ怪獣の最強と言えばレッドキングである。これには異論もあろうが、もともと「ウルトラマン」の企画段階のタイトルがレッドマンであり、レッドマン劇中における怪獣王の設定で考案されたのがレッドキングなのだ。赤くもない怪獣がレッドキングと名付けられたのはレッドマンのキングだから。大友昌司の怪獣解剖図鑑では「脳が赤いから」などともっともらしいトンデモ解説がなされていたがそれはご愛敬。また「ウルトラマンパワード」(1993年)に登場したときは褐色のメスを助けに現れるオスが真っ赤にカラーリングされていたりもしたが、それもずっと後年の話。
とりもなおさず最強レッドキングのさらなる強化版がブラックキングであり、筆者が親しんだリアルタイムの児童誌では「ブラックキングはレッドキングの弟」という設定が流布されていた(おそらくは大友昌司氏の素晴らしきトンデモ説)が、アーストロン&ゴーストロン兄弟同様、同じ親から生まれた兄と弟でここまでの形状違いはちょっとあり得ない。そもそもブラックキングはナックル星人が連れて来たんだから「宇宙怪獣」だろうよ。なんで地球のレッドキングと兄弟なんだよ。という当時からあったツッコミを思い出しますが。
ブラックキングは「用心棒怪獣」であり、対ウルトラマン用生物兵器であったこと考えると、ゴジラシリーズのガイガンや後の超獣のように、サイボーグ化されている可能性がある。あ、そうか。ナックル星人は地球原産のレッドキング(の弟)を捕獲、誘拐し、サイボーグ手術を施して地球侵略の尖兵にしたのか。なんてひどい奴なんだ。UFOに誘拐され身体に金属物体を埋め込まれるアブダクション話が流行ったのは90年代であったが、まさかブラックキングもアブダクティ被害者であったとは。しかも自分の生まれ故郷たる地球への侵略作戦の尖兵とは。ブラックキングが可哀想過ぎて涙を禁じ得ない。
さておき、原種であるレッドキングをひも解くならば、これは言うまでもなく成田亨氏による秀逸なデザインであるが、氏はあの幾何学的な蛇腹を下から上に小さくしていくことで、だまし絵のごとく、見上げた際の巨大感を演出したかったという。要するにパース図の立体化を意図したようだ。なるほど。
ところで当のブラックキングのデザイン画はというと、これが見つからない。もしかすると存在しないのかもしれない。レッドキングを真っ黒にしてツノとトゲをつけて強そうにすべし、などという口頭デザインだったのだろうか。
ツノか。恐竜にも哺乳類にもツノを進化させた奴は多くいるが、みんな草食動物である。ツノの代表選手とも言うべきトリケラトプスはもちろん、現生哺乳類のサイもシカもみんな草食だ。ケラトサウルスやディロフォサウルスのディスプレイ限定使用の装飾ツノは別として、肉食動物で武器としてツノを進化させた奴はいない。あ、マジュンガサウルスとかカルノタウルスはそういう説もあるな。まあ例外はどこにでもあるということで話を先に進める。
つまりツノとは、肉食獣の襲撃から身を守ることを主たる目的に進化するものなのだ。トゲも同様で、ステゴサウルス類のあの壮大な背びれも一撃必殺の尻尾先のスパイクも、アンキロサウルス類の甲羅のごときヨロイも尻尾ハンマーも、サウロぺルタやらスケリドサウルス類に顕著な肩から伸びるツノのような長々しいトゲも、やはり肉食恐竜の襲撃から身を守るために進化した結果だろう。
肉食恐竜たちの進化の方向は明確で、ツメと、キバを含む口である。顎の咬合力をどれだけ強くできるかをテーマに、かのティラノサウルスでその限界に達した感がある。あの冗談みたいに小さな手は、口を大きくするために頭が大きくなり、バランスをとるために矮小化させたものだ。かぶりついたら勝ち。防御のための部位は何もない。攻撃は最大の防御というわけだ。
レッドキングもブラックキングも、あのキバやツメから察するに肉食獣であろう。肉食のキバとツメに草食のツノとトゲか。まあ、そういう怪獣は数えきれないくらいいるし、神話時代のドラゴンにしてもそうなのだが、強さ凶暴さと見映えの禍々しさのいいとこ取りハイブリットこそが怪獣の本質なのかもしれない。
さておき、怪獣たちの剛腕はどう解釈するべきか。もちろんぬいぐるみに演者が入って操演する都合上、人間のシルエットになるのは当然なのだが、ここはアカデミックかつロマンチックに、人間の遺伝子が混入して進化に影響を与えたと解釈したいところだ。ビオランテ姉さんですな。これもまた、神話時代からスフィンクスやらケンタウルスやら人魚やら人狼やら、人間が動物と混じり合った怪物はいくらでもいるじゃないか。怪獣もその系譜と考えれば疑問を感じる必要もない。
とは言え、恐竜にも剛腕に進化させた奴はいる。そもそもヴェロキラプトルはじめドロマエオサウルス類など鳥に近い連中はみんながっしりした腕をしている。翼にして空を飛ぼうというのだから剛腕も当然だろう。飛ばなかった奴で極端な剛腕は、近年研究が進んで「ジュラシックワールド新たなる支配者」(2022年)でも活躍したテリジノサウルスや、NHK映画「恐竜超伝説 劇場版ダーウィンが来た!」(2020年)で主役を張ったデイノケイルスがそうだろう。テリジノサウルスの名前は「大鎌」サウルスで、劇中でギガノトサウルスを串刺しにした90センチもの大鎌のような巨大な鈎爪が由来。デイノケイルスはそのまんま「恐ろしい腕」という意味。ただしこの連中、ティラノサウルスと同じ獣脚類に分類されながら、雑食もしくは草食性であったらしい。進化のどこかのタイミングで肉食をやめたのだ。びっくりじゃないか。進化とは何でもありかよ。
つらつらとそのようなことを考えながら、早速ブラックキングもどきのパチモン怪獣を作り始めてみようじゃないか。
②いざ作る。に続く

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