乾燥待ちの間にいろいろ考える。注文者様については、帰ってきたウルトラマンダイレクト世代の俺より少し下の、ウルトラマンAに親しんだ世代かと勝手に思い込んでいたのだが、あにはからんや、②いざ作る。に注文者様からのコメントをいただき、それによると、平成4年生まれというから、もっとずっと下の世代であった。息子ほども下、というか、我が長男が平成5年生まれのはずだから、実際に息子と同世代であった。ほほう、お若いのになかなかお目が高いですな、とか、盆栽品評会の老人のようなことを言いたくなるが、それはさておき。
 ブラックキングとベロクロンとバキシム。この三体の注文というのが、狙ったのか、ただの思いつきなのか好みなのか、実に深いと言わざるを得ない。
 パチモン怪獣創造というのは、その怪獣の本質を探りながら別方向にアレンジを加えていく作業なわけだが、それには進化系統学的な考察が必要になる。いや、もちろんそんな大層なものではなく、あくまでもナンチャッテなわけですが。
 怪獣はゼロから発想されるわけではない。恐竜はじめ既知の生物のアレンジではじまる。「イグアノドンにステゴサウルスの背びれを付ければゴジラ」というように、出自というか、進化系統というか、創造者による発想の軌跡をたどることはある程度可能だ。デザイン画やデザイナーの証言や企画書やシナリオなどが見つかればなおのこと。
 手始めにブラックキングを手掛けたのは、アプローチが最も簡単だったから。先述の通り、ブラックキングはレッドマン(=ウルトラマン)世界におけるキングたるレッドキングのさらなる強化版だ。①長すぎる前置き。で、ブラックキングのデザイン画が見つからないと書いたが、あのあと見つかりまして。描いたのは「帰ってきたウルトラマン」中盤の怪獣デザインを手掛けた熊谷健(ベムスターなどの名デザインもこの人)。デザイン画の隅の設定メモには「全身は黒色でおおわれているがツノやツメ、キバは黄金色に輝く超重量級の怪獣の王と呼ばれています」とある。誰に「呼ばれて」るんだか。ちなみに、レッドキング初登場の「ウルトラマン」第8話「怪獣無法地帯」のシナリオ(金城哲夫と上原正三の共筆)にはレッドキングについて「キングコングと恐竜を合わせたような大怪獣」との表記がある。とにかくキングであり怪獣王なのだ。恐竜パーツのイイトコ取りでアプローチすればいい。僭越ながら、それは俺の得意分野でもある。
 そのような一筋縄ではいかないのが、ベロクロンとバキシムなのである。この二大怪獣が登場したのは「ウルトラマンA」(1972~73年)第1話「輝け!ウルトラ五兄弟」と第3話「燃えろ!超獣地獄」だが、ともにシリーズ冒頭の力入りまくり時期の作品であり怪獣デザインも造型も(のちに平成ゴジラシリーズの看板を張る川北特撮も)素晴らしい。ちなみに「ウルトラマンA」は、これまでの怪獣と差別化して「超獣」と呼び変え、恐竜の生き残り設定を排し、異次元人ヤプールという純粋悪を設定し、人間世界が異次元世界からの挑戦を受ける、という内容。怪獣デザインも異次元人による怪獣製造設定を受けて奇想天外を目指すことになる。
「一筋縄ではいかない」のは、何も奇想天外なデザインのせいばかりではない。いくら奇想天外でも人間の考えることであるから、発想の軌跡は追える。設定メモやシナリオ表記も残っている。
 例えばベロクロンは「珊瑚礁と宇宙生物を合体させた」ものだという。何でそんなもんを合体させるんだよ、というツッコミはさておき。総理大臣の異次元の少子化対策はただの言葉遊びだが、異次元人の超獣化作戦とはまことに恐ろしいものですな。
 なるほど、あのドレッドヘアのようにも見える、後ろ頭から(肩からも背中からも)後ろ向きに生えるソーセージだかインド料理のシークカバブのような例のアレは、サンゴであったか。普通にサンゴと言えば装飾品としての死んだサンゴを思い浮かべてしまうがあれは石灰質の残骸であり、生きているサンゴならあれくらい肉質的なわけか。ふむ。ではベロクロンは進化系統的には「岩石怪獣」の系統なわけだ。
 もう一方のバキシムにも目を向けてみる。青空が窓ガラスのように割れて、その向こうに赤い異次元世界が垣間見え、バキシムが顔を出すという、あの「異次元とは何か」を一発で視覚的に表現する特撮が素晴らしい。まさに異次元怪獣であり、公式の別名は「一角超獣」であるが、設定や特撮表現に目を奪われることなく、デザインにのみ注目してみると、コイツのボンレスハムのごとき段々腹は、実はイモムシの意匠である。つまりバキシムは「昆虫怪獣」の系統としてとらえるべきなのだ。
「岩石怪獣」と「昆虫怪獣」。これがベロクロンとバキシムが一筋縄ではいかない理由であり、この二体に「恐竜型怪獣」の決定版とも言うべきブラックキングを加えた三体の発注に対して俺が「深い」と感じた理由もここにある。
 ゴジラにはじまる恐竜型怪獣は、ほとんどの怪獣がここに含まれる王道中の王道系統だが、岩石怪獣と昆虫怪獣もそれに次ぐ大系統である。すなわち、この三体が揃えば、すべての怪獣が系統的に網羅されてしまうことになるのだ。
 何と怪獣の本質を突いた発注であることか、と感服せざるを得ない。

ネンドソー写真

 では、さらに、
⑤岩石怪獣へのアプローチ考察。に続く。