⑤岩石怪獣へのアプローチ考察。の続き。

 では、「昆虫怪獣」の系統についておさらいしつつ、パチモン怪獣としてのバキシムを作る際に、どうアプローチすべきかを考察する。
 昆虫怪獣と言えば、カブトムシとクワガタとアリジゴクをミックスした超カッコいいアントラー(「ウルトラマン」第7話「バラージの青い石」)がまず思い浮かぶが、羽化場面まで見せてくれたキングマイマイ(「帰ってきたウルトラマン」第32話「落日の決闘」)や、硬質感がなくて残念なノコギリン(「帰ってきたウルトラマン」第26話「怪奇! 殺人甲虫事件」)や、ムカデに恐竜の顔をくっつけたムカデンダー(「ウルトラマンタロウ」第26話「僕にも怪獣は退治できる!」)や、セミそのまんまのキングゼミラ(第21話「東京ニュータウン沈没」)や、ずん胴が可愛いサタンビートル(「ウルトラマンレオ」第25話「かぶと虫は宇宙の侵略者!」)など枚挙にいとまがないが、考えてみればセミ人間(「ウルトラQ」第16話「ガラモンの逆襲」)も名前からしてセミだし、この頭部マスクはバルタン星人(「ウルトラマン」第2話「侵略者を撃て」)に改造されているので、かの有名なバルタンからして昆虫怪獣に含まれるわけで、ことほどさように怪獣と昆虫は相性がいい。
 子供は怪獣が好きであり、爬虫類が好きであり昆虫も大好きだ。子供の感覚は人が社会化する前の感覚であるから、ヒトの本来的なものと考えて差し支えあるまい。また、好きという感覚は嫌いという感覚とも表裏一体で、爬虫類も虫も大嫌いという人もたくさんいる。
 人が爬虫類を嫌う(怖がる)のは、恐竜に怯えて暮らした二億年間の記憶が哺乳類全般に残っているから、などという説があって、なるほどそういうことはあるかもしれないと納得してしまうが、それを言えば、昆虫を節足動物あるいは無脊椎動物というくくりで考えれば、それこそ地球生命史上最初の本格的捕食者と言われるアノマロカリスは節足動物であり、彼らに食いまくられた魚は脊椎動物の始まりであり我々の遠いご先祖様である。爬虫類も哺乳類もひっくるめて魚の子孫であるから、進化を超えて受け継がれる遺伝記憶が本当にあるなら、我々ヒトがアノマロカリスの末裔たる昆虫を怖がるのは当然なのかもしれない。まあ、ゴキブリが顔に向かって飛んでくるのは確かにある種の恐怖感をあおりますな。
 西洋発の生物学が輸入される前の日本では、中国発祥の本草学が信奉されていて、これは生物にとどまらず植物や鉱物なんかも研究する博物学に近いもので、元々は不老不死の薬を作ることを目的としたものらしく、現在も信奉者の多い漢方薬はこの流れを汲んでいる。その本草学においては、爬虫類も両生類も昆虫もひっくるめて「虫」ということになっている。蛇とか蛙とか漢字で書くと虫編だからわかりやすい。虫は小さく虫は日陰者で、同時に虫は強い生命力を持っていて、人の体内にもいて人を操る。虫の居所が悪かったり腹の虫がおさまらなかったり虫の知らせがあったりする。すなわち、恐竜や岩石と同じように、我々にとって虫は怪獣なのである。
 昆虫食が検討される昨今だが、近代日本における虫と言えば、これはもう御蚕様だろう。オカイコサマ。すなわちカイコによる絹糸産業だ。日本の近代化成功、富国強兵政策の成功は、ひとえにこのカイコ産業の成功による。日本史上最初の海外輸出の大成功が高品質の絹糸であった。第一次世界大戦のヨーロッパで死屍累々だった兵隊の死体はみんな日本製の靴下をはいていた。その莫大な利益で近代日本は裕福になった。その陰には国内でも「女工哀史」や「あゝ野麦峠」(1979年)で知られる少女たちの過酷な労働があり、近代国家となった日本は儲けた金で軍備を進め、さらなる利益を求めて泥沼の日中戦争、大東亜戦争へと突き進んでいく。歴史の裏で虫が(絹)糸を引いていたわけで、昆虫が怪獣であることはもはや疑いようがあるまい。
 だがしかし、昆虫がそのまま巨大化して襲ってくるのでは、当たり前過ぎて怪獣としては二流だろう。それはどちらかと言えば「モンスターmonster」であり、「怪獣kaiju」とは言い難い。ワーナー映画「放射能X」(1954年)の巨大アリとかな。
 天下の東宝までがカマキラスやらクモンガ(「怪獣島の決戦 ゴジラの息子」1967年)やらエビラ(「ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘」1966年)やらガニメ(「ゲゾラ・ガニメ・カメーバ 決戦! 南海の大怪獣」1970年)やらで、虫を巨大化させて、はい怪獣でございますとかやっているが、どれも人気怪獣とは言えない。ソフビが高価なのはそもそも人気がなくてソフビ化の機会が少ないからこそ希少性でプレミアムになっているわけで、くそう、なかなか買えないじゃないか、という話はさておき。やはり昆虫の怪獣としての飛躍はウルトラシリーズと成田亨の登場を待たなくてはならないようだ。
 だが東宝の昆虫怪獣にもすごい奴はいる。「空の大怪獣ラドン」(1956年)に登場したメガヌロンだ。これは本邦初の昆虫怪獣でもあり、始祖にして最高峰。わしゃ子供の頃にテレビ放送で見て、その登場場面に腰を抜かすほどに驚いた。演者が三人、ムカデ競争の要領で操演する巨大ぬいぐるみで、これが合成なしの一発撮りで庭から家に侵入してくる。怖くないわけがないのだ。メガヌロンは主役のラドンを食わんばかりの勢いで盛大にラドンに食われていた(メガヌロンはラドンのエサという設定)。後年「ゴジラ×メガギラス G消滅作戦」(2000年)で復活再登場を果たしたが、残念ながら初代ほどの迫力はなかった。
 次なる東宝の昆虫怪獣は、これはもう超有名な人気怪獣モスラ(「モスラ」1961年)だ。オカイコサマをそのまま怪獣にしたその姿がなかなかに可愛いのは言うまでもない。メガヌロンの拡大版ともいえる巨大ぬいぐるみによる操演で、なんと八人もの演者がムカデ競争したというから壮大だ。小美人を追って日本に上陸したモスラの幼虫による渋谷繁華街大破壊の圧巻の特撮場面をご当地渋谷の映画館で観たという東映動画下積み時代の宮崎駿監督が、後年「風の谷のナウシカ」(1984年)で、モスラへのオマージュで王蟲を描いたのは有名な話。
「モスラ」では、ムカデ競争操演の巨大ぬいぐるみの他にも遠景用に内臓モーターで自走するタイプも使っていて、「モスラ対ゴジラ」(1964年)でゴジラを挟み撃ちにして絹糸?まみれにした双子幼虫はこちらのタイプ。それ以降の「三大怪獣 地球最大の決戦」(1964年)や「怪獣総進撃」(1968年)でも同じものが使われている。この内臓モーターだけが貸し出されて「ウルトラQ」(1966年)のナメゴン(第3話「宇宙からの贈り物」)に使われている。
 当時の東宝で円谷英二は稼ぎ頭として黒澤明と並ぶ特別待遇であったようで、その円谷監督が作った会社だけに、円谷プロの初期ウルトラシリーズでは、飛行機も戦車も怪獣のぬいぐるみも東宝の特殊美術が借り放題だった。音声もレッドキングはゴジラの鳴き声の早回しだし、バルタン星人のあの特徴的な笑い声は「マタンゴ」(1963年)の流用だったりする。
 ゴメス(「ウルトラQ」第1話「ゴメスを倒せ!」)、ジラース(「ウルトラマン」第10話「謎の恐竜基地」)はゴジラのぬいぐるみの改造(ジラースはエリマキをつけただけでほとんどそのまんま)だし、パゴス(「ウルトラQ」第18話「虹の卵」)、ネロンガ(「ウルトラマン」第3話「科特隊出撃せよ」)、ガボラ(第9話「電光石火作戦」)、マグラー(第8話「怪獣無法地帯」)はみんなバラゴン(「フランケンシュタイン対地底怪獣」1965年)の改造だ。モスラの幼虫も内臓モーターだけではなく外側も含めてゲスラ(第6話「沿岸警備命令」)として流用予定であった。ゲラン蜂の幼虫という設定でトゲをつけた成田亨のデザイン画が残っている。だが実際のゲスラはピーター(「ウルトラQ」第26話「燃えろ栄光」)を改造したトカゲ型怪獣に変更された。なぜかというとウルトラマンと格闘しなくてはならなかったからだ。そりゃまあ人の入らないイモムシ相手に迫力ある格闘場面は撮れんわな。
 ここで寄り道して、バラゴンについて解説する。「フランケンシュタイン対地底怪獣」(1965年)で一方の主役を演じたこの怪獣はタイトル通り地底怪獣であり、恐竜が絶滅を逃れて地下にもぐり現代まで生き残った、と劇中でも語られるが、海底生活者(には見えないが)のゴジラにしても、あんなに大きな奴がなんでこれまで誰にも発見されなかったかの言い訳が必要になる怪獣存在にとって、地底怪獣という設定はまことに便利である。そして「地底怪獣」と書いてバラゴンとルビを振るくらいに地底怪獣と言えばバラゴンだ。地底怪獣の代名詞、どころか「地底怪獣」自体がバラゴンのために作られた造語であった。
 そしてあの、地面が割れ土砂をまき散らしながら怪獣がのそのそと這い出して来るという血沸き肉躍る特撮場面は「フランケンシュタイン対地底怪獣」のバラゴン登場場面ではじめてお目見えした。ウルトラシリーズでこのバラゴンのぬいぐるみを改造して量産された前述の地底怪獣たちも、みんなこの登場の仕方をする(透明怪獣のネロンガは例外)。ああ、毎朝、地底怪獣になりきって布団をはねのけて起き出した子供時代が懐かしい。ソフビ怪獣を公園の砂場から「登場」させる遊びも定番中の定番だった(あとは積み木崩しの「都市破壊」と、風呂に持ち込んでの「上陸場面」ですな)。
 バラゴン(とその改造地底怪獣たち)のシルエットは四つ足のデブデブであり、これはおそらくヒキガエルを参考にしている。ヒキガエルは両生類であり、地下生活者ではないが、地面にもぐって冬眠するし、冬眠から覚める春先にはまさに地底怪獣の登場場面さながらに土中からのそのそと這い出す姿が見られる。フランケンシュタインとの格闘場面でも、瞬発的にビョンと飛び上がって攻撃を仕掛けるカエルじみたバラゴンの描写があるから、おそらく間違いない。
 パゴス、ネロンガ、ガボラ、マグラーの撮影の後、バラゴンのぬいぐるみは東宝に返却されるが、度重なる改造でぬいぐるみに破損があったのか、それとも返却のタイミングが遅れたのか、東宝全怪獣総出演を謳った「怪獣総進撃」(1968年)でのバラゴンの登場場面は大幅に削られている。シナリオ決定稿でもバラゴンだし登場人物も「地底怪獣が現れた」とか言ってるくせに、実際映像に映って活躍しているのはゴロザウルス(「キングコングの逆襲」1967年)だったりするのだ。そのあたりの経緯は特撮界の「解いてはいけない謎」になっているようで、文献も証言もない。
 実は三十年くらい前に有川貞昌特技監督(円谷英二の一番弟子で東宝の二代目特技監督)のトークショーのある特撮イベントに参加したのだが、質疑応答の際に、失礼にも「なぜパリの凱旋門を壊す地底怪獣がゴロザウルスなんですか?」と質問しやがった人がいて、うわ、それ聞いちゃうんだ、と引きつつも身を乗り出して回答を待ったのだが、有川特技監督は「ゴロザウルスの方がカッコいいでしょ?」と回答にならないどころか数多い地底怪獣ファンにも不誠実なお答えで、ああ、やっぱりこれは聞いちゃいけない質問なんだと納得したものだ。
 やはり、円谷プロの撮影でバラゴンのぬいぐるみが壊れちゃったのだろうか。だとすれば有川特技監督はじめ特撮関係者が御大円谷英二の悪口を言えるわけもなく、解いちゃいけない謎になるのも致し方なし。あるいは同時期に東宝特殊美術課でも代替わりがあり、初代ゴジラ以降バラゴンを含むすべての東宝怪獣のデザインと造型を担ってきた利光貞三が東宝を退社して、造型チーフを安丸信行が継ぎ、84年版の復活ゴジラまでを手掛けているが、そのデビュー作だったゴロザウルスを優遇しようという機運があったのかもしれず、単に「キングコングの逆襲」での登場場面が少なく劣化のなかったゴロザウルスが使いやすかった、ということかもしれない。
 ともかく、製作の続く「ウルトラマン」で、もうバラゴンは借りられなくなり、地底怪獣の系譜は途絶えたかに見えた。いや実は、第25話「怪彗星ツイフォン」のレッドキング二代目も、第26・27話「怪獣殿下」前後編のゴモラも、岩盤を突き破って地下(というか山肌)から登場するのだが、これはあくまで「今までどこにいたんだよ」というツッコミに対するエクスキューズであり、彼らに地下生活者という設定はない。
 地底怪獣を出したい。でもバラゴンはない。そのようにして、成田亨によってまったく新しいタイプの地底怪獣デザインが模索されることになる。よッ! 待ってました! それがテレスドン(第22話「地上破壊工作」)とゴルドン(第29話「地底への挑戦」)だ。
 地底人による地上破壊工作の尖兵怪獣のテレスドンにしろ、地底戦車ペルシダーと戦うゴルドンにしろ、両話とも、もうシナリオ段階から地底怪獣を出さなくては格好がつかない作劇だ。逃げるわけにはいくまい。
 ヒキガエルを参考にしたバラゴンに対して、成田が参考にしたのは、何と、イモムシであった。確かにカブトムシやクワガタやカナブンなど、甲虫の幼虫はみんな土中生活者だ。子供はヒキガエルも好きだがカブトの幼虫はもっと大好きだ。俺にも子供の頃、雑木林でカブトの幼虫を求めてあちこちの土を掘り返した記憶がある。新たな地底怪獣のデザインの題材にするには持って来いじゃないか。
 テレスドンではじめて採用され、その後延々と続く怪獣腹部のボンレスハムかチョココロネのような段々形状は、このようにして発想されたのだ。はい、長い長い寄り道を経てやっと話が戻ってきました。実はテレスドン、ゴルドンにはじまった新たなる地底怪獣の系譜は、昆虫怪獣の系譜でもあるのだ。
 そしてそのイモムシの段々腹部は、一角超獣バキシム(デザインはベロクロンと同じく井口昭彦)にもしっかりと受け継がれている。ただし、先述の通り、バキシムの登場は「地面が割れ土砂をまき散らしながらのそのそと這い出して来る」のではない。青空を割って異次元から飛び出すのだ。おお、超獣。さすがにやってくれるじゃないか。
 異次元からのイモムシ怪獣をどう作るか。ネンドソーがどうアプローチすべきか、だんだんに見えてきたじゃないか。造型一発なのだからウルトラマンと格闘する必要もない。バキシムよ。もうおまえは戦わなくてもいいんだよ。人が入って操演することもない。ただ純然と、その威容を誇るだけでいいんだ。

ネンドソーバキシム
 では、
⑦まずは昆虫怪獣から手を動かしてみようか。に続く。