◇デイノニクス

全長3.54メートル/体重100キログラム/白亜紀前期

恐爪襲撃8
名場面(ジオラマベース付)シリーズ「恐爪襲撃」

最初の化石は1931年、古生物学者バーナム・ブラウンによってアメリカのモンタナ州でテノントサウルスの化石とともに発見されたが、そのまま名前も付けられずどこの誰でもない「どこの馬の骨ともわからない恐竜の骨」として放置されていた(ひどい)のを、1964年になって、ジョン・オストロム博士が同じ場所から同種3体分の化石を発見し、1969年に命名記載。名前は「恐ろしい鉤爪」の意。ドロマエオサウルス類に含まれ、走るのに適した長い脚とその名の由来である後肢第二指先端の特大鉤爪が特徴。

この発掘状況は、そのまま群れで大型鳥脚類のテノントサウルスを襲った証拠であるとして、高い運動能力から逆算される高い代謝能力を根拠とした温血説が提唱される。さらにチームハンティングを可能とする高い知能とコミュニケーション能力があったとされ、学会に大論争を巻き起こした。

この論争は学会にとどまらずメディアを通して一般にも広く反響を呼び、それまでは愚鈍な爬虫類とされてきた恐竜が実は高度に進化した生物であったとする意識改革運動がおこる。これが「恐竜ルネサンス」だ。

1969年と言えば俺は二歳になっていたはずだが、子供の頃に読み親しんだ恐竜図鑑にはまだデイノニクスの記述はなかった。じわじわ浸透した感じだったのだろうか。俺の記憶では中学生か高校生のときに立ち読みした研究本ではじめてデイノニクスの記事を読んだような気がする。つまり80年代初頭ということになり、十年の時間差があったわけだ。

近年の研究からは他のドロマエオサウルス類と同様にデイノニクスも羽毛で覆われたと考えられている。進化系統樹的には鳥はこの連中から進化したことになっていて、近縁種にはほとんど鳥にしか見えないミクロラプトルなんてやつもいて、こちらは2003年に中国で羽毛化石が発見されている。

そこで面白いのが徐星博士の研究なのだが、ドロマエオサウルス類から鳥が進化したのではなく、鳥からドロマエオサウルス類が進化した、というのだ。ええとつまり、進化史上には始祖鳥の名で知られるアーケオプテリクスが存在するわけだが、こちらはジュラ紀の地層から発見されていて、白亜紀のデイノニクスたちドロマエオサウルス類よりも早く、それどころか白亜紀にはすでに現生鳥類と変わらない真鳥類が現れている。数千万年単位で進化の時系列が合わないのである。だから、一度は鳥に進化したけどやっぱり飛ぶのをやめてもう一度地に足つけて走り出したのがデイノニクスでありヴェロキラプトルでありドロマエオサウルス類なのだという。それはそれでおかしなことにもなりそうだが、目からウロコというか、目から羽毛というか、まあ説としては面白い。

恐爪襲撃2

名場面(ジオラマベース付)シリーズ「恐爪襲撃」


◇ヴェロキラプトル

全長2メートル/体重15キログラム/白亜紀後期

蒙古略奪10
名場面(ジオラマベース付)シリーズ「蒙古略奪」

モンゴル、中国、ロシア東部に生息した小型の獣脚類で、名前は「俊敏な略奪者」の意。1922年アメリカ人古生物学者ヘンリー・フェアフィールド・オズボーン博士を隊長とするアメリカ自然史博物館の調査隊がゴビ砂漠のモンゴル国領内バヤンザグにて発見し、1924年に命名記載。東西冷戦下の1971年にはポーランドとモンゴルの合同チームがヴェロキラプトルとプロトケラトプスの格闘化石を発見。

言うまでもなくこのヴェロキラプトル、1993年の第一作「ジュラシックパーク」で一躍有名になった。ああ、またこの映画か。いや、好きだけどね。思い起こせばこの映画以前のハリウッド映画の特撮と言えばモデルアニメーション一辺倒で、ハリーハウゼンのモデルアニメーション映像は素晴らしいが、あれはモデルアニメーションの悪夢のような不自然な動きを楽しむもので、リアルとは言い難い。リアルさで比べるなら日本の(円谷英二の)着ぐるみ特撮の方が生き物の動きとしてリアルだろう。ハリーハウゼンが特撮を担当したイギリス映画「恐竜百万年」(1967年日本公開)は名作には違いないがあくまでも古典だ。そこへ「ジュラシックパーク」がCG技術を持ち込んだわけだが、これはすごかった。わあ、恐竜が生きて動いておるぞ、とは確かに思った。

この映画を子供の頃に観て古生物を志した若手古生物学者も多いと聞くが、俺世代としてはそれで人生が変わるとか恐竜が好きになるとかそんなことは全然なく、だって恐竜は元から好きだったわけだし、テクノロジーで作った人造恐竜のテーマパークというアイディアは原作者マイケル・クライトン自身の「ウェストワールド」(1973年公開)の焼き直しだし、ビジュアル的にはゴジラシリーズの「怪獣総進撃」(1968年公開)に登場する怪獣島の趣で特に新しさも感じなかった。同じスピルバーグなら「ジョーズ」(1975年公開)やら「インディ・ジョーンズ」(1981年公開)やら「E.T.」(1982年公開)やら「バックトゥーザフューチャー」(1985年公開)(はゼメキスだけど)やらもっと影響力のある映画もあったわけだし。CGにしても、映画全編を通してもたったの7分しか使われておらず、実際にはほとんど「ジョーズ」以来お馴染みのアニマトロニクス(機械仕掛けの実物大ロボット)だったわけだし。

さておき映画に登場するあの恐竜キャラクターは実はヴェロキラプトルではなくデイノニクスだという話をしよう。デイノニクスこそは、先述の通り「恐竜ルネサンス」の中心であり、恐竜鳥進化説も恐竜温血説も恐竜が社会を形成して群れで狩りをしたという説も、ジョン・オストロム博士のデイノニクス研究を通して出揃っている。映画でも大きく取り上げられていたシックルクロウと呼ばれる半月状の恐ろし気な鉤爪もデイノニクス研究で有名になったものだ(何しろ名前の由来だ)。大きさも全長4メートルの体重100キログラム前後でなるほど映画のイメージに近い。だってヴェロキラプトルの全長2メートルって尻尾をなくせば半分以下だし、体重15キロって、七面鳥サイズじゃないか。抱っこできちゃうぞ。群馬県の恐竜センターで有名なプロトケラトプスとの格闘化石も見たけど、あれではいかにも小さ過ぎるだろう。

蒙古略奪4
名場面(ジオラマベース付)シリーズ「蒙古略奪」

聞くところによると、映画企画当時にこのデイノニクスとヴェロキラプトルが同種の地域差ではないかとの説があって(現在同種説は否定され、別種とされている)、もし同種となれば同種異名(シノニム)の場合先に記載された方に優先権があるので、先に命名されたヴェロキラプトルで統一されることになり、そうなればデイノニクスの名前が消えてしまう、と見越してのことだったのだろうか? スピルバーグ監督がこのヴェロキラプトルという耳慣れない語感を気に入って、キャラクターのネーミングとしてヴェロキラプトルを採用した、という話も聞く。それってどうなんだよ。ああ可哀そうなデイノニクス。まあ、同種疑惑があったくらいだから、両種は大きさの違いをのぞけばそっくりだからどっちでもいいようなものだけど。

ではこの流れで、もう一種、ユタラプトルの話もしよう。こいつは白亜紀前期に生息した近縁種だが、何しろでかい。全長57メートル、体重1トンだから、体重でデイノニクスの十倍。ヴェロキラプトルの七十倍近い。ひと回りどころの騒ぎではない大きさだ(映画キャラクターで言うならインドラプトルくらいか)。

さてこのユタラプトル。1975年、アメリカのユタ州東部で初の部分化石が発見されたがまったく注目されず、名も無き誰かさんの「どこの馬の骨ともわからない恐竜の骨」として放置(またかよ)。1991年、ヴェロキラプトルやデイノニクスにそっくりの大きな足の鉤爪が見つかったことで、はじめて注目される。お金の匂いがしたんだろうねえ。

マイケル・クライトンが「ジュラシックパーク」の原作小説を出版したのは前年の1990年。スピルバーグ監督は一読して映画企画をスタートさせたらしいが、それを聞きつけたか、ユタラプトルを新種として命名記載するつもりの古生物学者ジェームズ・カークランド博士は、研究資金援助の見返りに種名を決める権利を売り出し、スピルバーグにも打診。話はまとまりかけ、ユタラプトル・スピルバーギィになる予定だったとか。そこまでメディアミックスかよと呆れるが、この話は金額が折り合わなくてご破算。でも結局ラプトルの名前は残り、1993年、映画公開と同時に命名記載。アトラクション用の機械仕掛け恐竜を作るメーカーが命名権を落札したとか。「ユタ州の略奪者」の意だが、どちらかと言うと、「ユタ州のヴェロキラプトル」みたいなニュアンスだよな。ちなみに小種名はオストメイシムで、これはオストロム博士への献名だろう。

さて、話をヴェロキラプトルに戻すと、2007年に古生物学者アラン・ターナー博士がモンゴルにて羽毛がついていた証拠と言える等間隔に並ぶ突起のある前肢の化石を発見した。これによってヴェロキラプトルもデイノニクスも(ついでにユタラプトルも)、もともと羽毛化石で発見されているミクロラプトルはもちろん、ドロマエオサウルス類の近縁種は軒並み羽毛恐竜(というか鳥恐竜?)だと考えられている。

 コロナ禍で製作延期となり来年2022年予定となった公開が待ち遠しい「ジュラシックワールド・ドミニオン」でもティラノサウルスとともに相変わらずのウロコ姿で活躍するらしいヴェロキラプトルだが、いつまで学説無視&キャラクター重視の姿勢を続けるつもりなのか、それはそれで見物ではある。

蒙古略奪2
名場面(ジオラマベース付)シリーズ「蒙古略奪」

◇ネンドソー的恐竜考
①感覚が追いつかない!
②恐竜は爬虫類ではない!
③そしてジュラシックパーク!
④差別的ゴジラ型(カンガルー型)復元!
⑤アカデミック方面が心配だ!