◇イグアノドン

全長79メートル/体重5トン/ジュラ紀後期~白亜紀前期

暴竜降臨6
名場面(ジオラマベース付)シリーズ「暴竜降臨」

最初に発掘され研究された恐竜であり、メガロサウルスと並んで恐竜研究史の原点。イギリスのマンテル医師が趣味の化石集めの一環で発見し、命名記載されたのが1825年というから、何と驚くなかれ、日本はまだ江戸時代じゃないか。サムライがチャンバラしていた時代にすでに研究が進んでいたのだ。名前は「イグアナの歯」の意。マンテル医師は歯の形状がイグアナに似ていることから巨大爬虫類の存在を提唱したわけだ。もちろん恐竜化石はそれまでにも普通に人目に触れていて、それが東西神話のドラゴンや巨人伝説を生んだのだろうし、漢方薬でも竜骨と称し恐竜化石を粉末にして飲んでいたわけですが。まあ学術的という意味での第一号研究。

筆者が18歳のときに大英博物館所有のこのイグアノドン全身骨格化石が上野自然科学博物館で特別展示されて、当時大阪在住だった筆者は(大阪には来てくれなかったので)わざわざ東京まで原チャリで一号線を20時間くらいかけて走破して見に行きましたがな。若かったなあ。はい。さておき、研究の歴史が長いだけに復元図も劇的に変遷していて、それを比べ眺めるだけでも大変に興味深い。

最初期は特徴的な尖った親指を鼻の上の角としてイグアナのような四つ足(というか腹這い)のトカゲとして復元されたが、1851年にベルギーの炭鉱で30体以上の集団化石群が発見されて、しかもそれらは全身が生前のままに繋がった状態で、ここではじめてイグアノドンの全貌が明らかになり(角だと思った円錐形の骨は実は親指だった!)改めて復元しなおされたのが、ご存知、直立二足歩行のゴジラスタイルのあの姿だ(というかゴジラのデザインがこの復元図を参考にしたわけだが)。それが、90年代に再び四つ足となる。これは前肢の真ん中三本の指(人差し指中指薬指)に手の甲側に深く曲がる特殊な関節が確認されたからで、そりゃ確かに四つ足で歩くのに便利そうだ。前肢に比べて後肢が長いので二足歩行説も捨て難く、現在のところは普段は四つ足歩行して襲われて逃げるときや高い枝の葉を食べるときには二足で立ち上がったものとされている。

角と誤解されるくらいに長大な親指は、筆者の子供時代には肉食恐竜に対する武器と言われており、まさにサムライの剣だかヤクザのドスのように必殺の一撃を放ったとされていたものだが、今では葉っぱを引き寄せるためのものと考えられているようだ。数百本にも及ぶ発達した臼歯を備え、上顎の歯列を左右に動かす特殊な関節を使って植物を効率的にすりつぶしたという。この歯をさらにデンタルバッテリーにまで進化させたのが、のちに現れるカモノハシ竜というわけだ。

恐爪襲撃7
名場面(ジオラマベース付)シリーズ「恐爪襲撃」

筆者が見たイグアノドンの全身骨格化石も当然直立姿勢のゴジラスタイルだったわけだが、どうやら近年、大英博物館でも胴体を地面に平行にした新復元姿勢に組み替えられたようで、東京上野博物館のアロサウルス化石標本同様、何でそんな無粋なことをするんだろうと首を傾げてしまう。もちろん科学は進歩するし新学説を珍重するのはアカデミックな態度であろうが、文化史的な価値を無視し過ぎるのはどうかとも思う。幸いベルギーの博物館では、旧復元のままのイグアノドン集団化石が展示されているらしいが。たぶん30匹分の化石を組み直すのは大変過ぎるのだろう。

また、イギリスには有名な水晶宮公園(クリスタルパレスパーク)というのがあって、ここは1851年に世界初の万国博覧会(ロンドン万博)が行われた場所で、その際の目玉が、当時科学の最先端であり話題騒然であったイグアノドンとメガロサウルス、そしてプレシオサウルスやモササウルスの実物大復元石像であった(日本ではやっと幕末。ペリーの黒船来航が二年後の1853年、明治維新はまだ十七年後の1868年)。これは「恐竜(dinosaur)」という分類学上の言葉を作った古生物学界の草分けリチャード・オーウェン博士が監修を務めた由緒ある復元像なわけだが、ベルギーでの化石群発掘との僅差で先に作られた像だけに、最初期復元の四つ足腹這い&(実は親指の)角一本を鼻先に雄々しく掲げた、見当違いにもカッコいい勇姿であった。しかも、おお何と、今現在(2021年)もイグアノドンを含む全ての石像が歴史的遺産として同公園内に残されているのだ。まあ、大阪万博太陽の塔みたいなものだろうか。大阪と言えばやはり万博に合わせて天王寺公園内に実物大恐竜石像が設置され(万博には実物大恐竜像というのがロンドン万博以来1920世紀にかけての伝統というか世界的定番であったようだ)、筆者が子供の頃にはしっかり残っていた(アロサウルスとブロントサウルスとステゴサウルスだった)が、残念ながら21世紀を待たずに撤去されてしまった。ああ、哀しや。

ともかく、イグアノドンとはそれほど歴史のある恐竜であり、最新学説がどうであろうが化石標本を安易に組み替えるべきではない。重要文化財の姫路城を新しい建築法が発明されたからって勝手に改築するか? バリアフリーが流行だからって天守閣にエレベーター設置するか? しないのである。間違いだろうが何だろうが手を加えるべきではないものもあるのだ。それともうひとつ。恐竜研究に歴史があるということは、恐竜とはそれほど長きに渡り人を惹きつけ続けている、ということを忘れてはいけない。ニワカファンの恐竜好き子供たちは微笑ましく見逃してやらんこともないが、恐竜って最近流行ってるねとか、ジュラシックパークのせいだろうねとか、いい大人やメディアが何を抜かすか。前々世紀から続く人気は、流行とは言わず定番というのだ。

いつか機会があれば、ベルギーの化石群標本とイギリス水晶宮公園の実物大石像は見に行ってみたいものだ。さすがに原チャリで行くのは無理だろうが。

暴竜降臨3
名場面(ジオラマベース付)シリーズ「暴竜降臨」

◇ネンドソー的恐竜考
①感覚が追いつかない!
②恐竜は爬虫類ではない!
③そしてジュラシックパーク!
④差別的ゴジラ型(カンガルー型)復元!
⑤アカデミック方面が心配だ!