◇プレシオサウルス

全長23メートル/体重90150キログラム/ジュラ紀前期

海竜伝説2
名場面(ジオラマベース付)シリーズ「海竜伝説」

名前は「爬虫類に近似した」の意で、発見当初水棲の生き物であることから「魚類と爬虫類の中間的生物、その中でも爬虫類により近い」と推測されたことによるが、これはもちろん間違いで、ちゃんと両生類を経て爬虫類に進化した後で海に戻って適応した海棲爬虫類。1821年にHT・デラベシュ博士とウィリアム・D・コニビア博士によって命名記載。

首長竜と呼ばれ、長らくネス湖のネッシーの正体とされてきたが、近年の研究では竜脚類と同じく、その頸部は脊椎骨の延長線より上向きには曲がらなかったとされ(曲がるというよりは「しなる」構造らしい)、あの有名なネッシー写真の水面から首もたげる「白鳥のポーズ」は取らなかったと思われる。下向きにしならせた首で釣りのように魚を捕食して生活していたらしい。また、海底の砂を掘り返しながら泳ぎ、砂に潜む魚類などを濾過して食べていたと考えられる、何重にも掘り返した海底の砂がそのまま化石になった岩盤が発見されており、プレシオサウルス類がつけた採食痕跡だと言われる。

四肢はオール状で、身体の構造上泳ぐスピードは速くなかったが、機動性に富んでいたと思われる。大人の腹部の骨に子供の骨が重なっている化石が発見されたことから、胎生であったと考えられている。

 

◇ランフォリンクス

全長1.7メートル/体重4キロ/ジュラ紀後期

海竜伝説4
名場面(ジオラマベース付)シリーズ「海竜伝説」

最初の化石発掘は1825年だが同定が混乱し、1847年ドイツの古生物学者ヘルマン・フォン・マイヤー博士が命名記載。ドイツ、イングランド、タンザニア、スペイン、ポルトガルなど、ヨーロッパからアフリカにかけて広く分布。とくにドイツのバイエルン州では始祖鳥ことアーケオプリテクスが発見されたのと同じ石灰岩の地層から発見される。

靱帯で強化された長い尾の先端に特徴的な菱形の尾翼があり、飛翔の際のバランスや舵を取ったと思われる。上下顎には針のような歯が前方を向いて並び、吻端が鋭く反って嘴のようになっていることから魚食性だったと考えられている。また頭骨化石には強膜輪(眼球を支える骨格)が見られ、大きく発達した眼球を持ち夜行性であったと思われる。また、最近の研究では彼らは現在の水鳥の多くと同じように泳いで採餌していたのではないかとも推測されている。

海竜伝説1
名場面(ジオラマベース付)シリーズ「海竜伝説」

さあ、来たよ。この二種。特に深い関わりがあったわけではない彼らを並べて語るのは、当然筆者が東映映画「恐竜怪鳥の伝説」(1977年公開)を子供の頃に観て深い感銘を受けたからである。エンタメ万歳。この映画は富士山噴火の予兆で樹海の風穴に冬眠していたプレシオザウルスが復活蘇生して、巨体の割にはこそこそ上陸しては家畜やら観光客を食いまくり、さらに凍っていた卵から孵化した翼竜ランフォリンクスと戦いながらついには噴火した富士山のマグマに呑まれる、という血沸き肉躍るトンデモ恐竜映画であり、ブロントサウルスの項でも書いたが、プレシオザウルスの造型は「怪獣王子」(196768年放映)のネッシー・ブロントザウルスと同じ大橋史典の手によるものであり、なるほど顔付きもそっくりだ。友達恐竜だったブロントザウルスとは違いプレシオザウルスは人喰いで、かのスピルバーグ監督の出世作「ジョーズ」(1975年公開)の大ヒットを意識したサスペンス&スプラッターホラー要素たっぷりの演出で人を襲う。富士西湖でゴムボートの女の子を捕食する場面は(その食べ残し死体の発見場面を含めて)大変素晴らしい。小学五年生だった筆者はこの場面にハマりにハマり、親の金を盗んでは公開中の近映大劇場に何度も通ったものだ。大人になってから観た「ジュラシックパーク」なんかよりずっと感銘を受けたし人生を変えられた映画である。あ、ちなみに人間の主演は人気俳優の渡瀬恒彦で、東映もそれなりに力を入れていたのでしょうな。
海竜伝説3
名場面(ジオラマベース付)シリーズ「海竜伝説」 

首長竜つながりで、ここでもマーシュ博士とコープ博士の「化石戦争」について語っておこう。またか、と思われるだろうが、いや、ホント、有名どころの恐竜はほとんどこの人たちが発見していて語るべきことが多過ぎるのだな。この絶大な古生物学への貢献が馬鹿馬鹿しい化石発掘競争に支えられているというのがまた笑える。いや、ブロントサウルス(アパトサウルス)の混乱のように、競争のためによく調べもせずどんどん新種記載して後世に混乱を残す、程度ならまだ可愛いもので、相手に発掘させないように発掘地をダイナマイトで爆破してしまうとか、発掘チーム同士の間でしばしば銃撃戦が展開されたとか、いくら西部劇の時代を引きずる19世紀だからって、そりゃあまりに野蛮というか、無茶苦茶じゃないか。

で、その化石戦争の発端というのが、実は首長竜だったらしいのだ。プレシオサウルスの後継というか子孫というか、一億年くらい後の時代に生息した、エラスモサウルスという首長竜がいて、これはひと目で進化の道筋がわかるというか、プレシオサウルスよりもずっと大型(14メートル、プレシオサウルスの七倍)で、しかも頭が小さく首がずっと長い(脛骨の数はプレシオサウルスの32個に対してエラスモサウルスは76個)。より洗練されたスマートな姿(名前の由来は「リボン」のトカゲ。リボンみたいに細長い首という意)なのだが、これを研究していたコープ博士、あまりの首の長さにそれを首だと思えず、こっちが尻尾だろうとばかりに本当の尻尾の先に頭骨をつけた姿で復元して学会発表してしまったのだ。まあ、それも致し方のないことだろうに、当時は仲のいい研究仲間というか友達だったマーシュ博士がその間違いを指摘してしまった(あんたそれ頭と尻が逆だよ!)。そういう指摘は本人にだけこっそり耳打ちすればよかったのに、公の場で否定発表したものだから、恥をかかされたとコープ博士は怒り心頭、そのようにして化石戦争が幕を開けたのであった。

まあね、ライバルの存在がお互いを高める、なんて言い方もあるけど、結局のところ男どもは勝負事や争い事、ようするにケンカが大好きなんだろうな。これもまたオスアピールであり、モテ闘争の一形態というか、発情期の雄猫の引っかき合いやパキケファロサウルスの頭突き合戦と何も変わらない。

海竜伝説7
 名場面(ジオラマベース付)シリーズ「海竜伝説」

男と女の本質的な差異について語るとそれだけで差別的だとかセクハラだとかの指摘が面倒臭い昨今であるが、男児三人と女児ひとりの成長を見守る父親の実感として男女には大きな違いがあるように思う。筆者は全長1メートルのバルタン星人のフィギュア(バンダイ)を持っていて、これは子育てアイテムであり、長男も次男も三男もウルトラマンコスプレパジャマを着てこれと戦ったものだが、長女はどうかなと彼女が一歳になる頃に試しにけしかけてみたのだが、彼女は戦わなかった。怖い! と悲鳴を上げて後ずさり、そのあと彼に(バルタン星人に)悪意や害意がないことがわかると、今度は床に横たえたバルタンに自分のお気に入りのバスタオルを布団のようにかけて添い寝し、子守唄を歌って寝かしつけをはじめたのだ。わしゃひっくり返りましたがな。一歳にしてそれとは。おお、好戦的な男と違い、女性とは本質的に愛し慈しむ性であったか。マイアサウラはオスでも女性名詞なのはそのせいか(サウラはサウルスの女性形)。

父親の(悪)影響で、しっかり恐竜好き少女に育った我が娘ではあるが(小二現在、恐竜知識で彼女にかなうクラスメイトはいない)、恐竜に対する愛情の傾け方は明らかに男児のそれとは違う。恐竜フィギュアで遊ぶときでも、父が(母親が買い与えた)シルバニアファミリーを捕食させようとすると烈火のごとく怒り狂って父を罵倒し、説教さえはじめる始末だ。彼女いわく、この子たちはみんな優しい草食性になったから動物を襲わないの、だそうだ。ティラノサウルスさえ卑小な哺乳類どもの用心棒か家畜に成り下がる。無敵の暴君竜をペット扱いするヒトの傲慢を指摘してもちっとも聞く耳を持たないのだ。

海竜伝説8
名場面(ジオラマベース付)シリーズ「海竜伝説」 

では、コープ&マーシュ博士みたいに化石戦争をしない「愛と慈しみの」女性は恐竜研究に貢献しないかと言うと、それはちっともそんなことはない、という話をしよう。

そもそもプレシオサウルスを最初に発見、発掘し、世に知らしめたのは女性である。その名をメアリー・アニング。メアリーは18世紀末1799年生まれの女性で、イギリス南部沿岸地方に育ち、海岸で化石を採掘しては観光客に売って、病弱な父(結核を患っていたらしい)に代わって家計を支えていた。そんな彼女がイクチオサウルスの完全な全身化石を発掘して脚光を浴びたのはわずか12歳のとき。そしてさらに22歳のときに発掘したのがプレシオサウルスのこれまたほぼ完全な骨格化石であった。これはタイプ標本(その種の基本となる化石)として今も大英博物館に展示されている。女性が知的職業に就くことを禁じる当時のイギリスの法律(何じゃそりゃ)によって学位取得もしていないが、凡百の学者よりもよほど功績のあるメアリーは、死後に再評価を受けている。英国科学史ジャーナルは「世界の歴史上で最も偉大な古生物学者」と称賛し、世界を変えた50人の女性科学者のひとりにも数えられている。

海竜伝説5
名場面(ジオラマベース付)シリーズ「海竜伝説」 

さて、首長竜と言えば日本にはもうひとり(一匹?)忘れてはいけない有名なやつがいる。フタバスズキリュウだ。中年以上の恐竜好きならこの名前を知らないはずはない。ネンドソー的恐竜考でも書いたが、1968年に当時高校生だった鈴木君が発掘した日本初の恐竜化石である。いやまあ、首長竜は「恐竜」ではないし、日本初の恐竜化石にはニッポノサウルスがいるわけですが。しかし樺太・サハリンはすでに日本ではないし、恐竜非恐竜問題についても、この分類学上の基準を、学会ならまだしも一般向けのメディアまでが厳密に扱いたがるのは日本だけの現象らしく、海外の恐竜図鑑にはちゃんと首長竜も翼竜も、ディメトロドン(単弓類)も掲載されているらしいじゃないか。だから日本初の恐竜化石でもいいと思うのだが。とにかくフタバスズキリュウの発見は日本の恐竜好き少年少女の常識であり、だからこそ藤子不二雄御大も作品に取り入れ、二度も映画化された「ドラえもん・のび太の恐竜」(1980年公開・2006年新版公開)で主役を張っているのだ。そう。あの可愛いピースケこそがエラスモサウルス類のフタバスズキリュウだ。ピューイ!

そして、さあ、お立合い。ずっとローカルな認知だけで正式学名さえなかったフタバスズキリュウが発見後三十八年たった2006年に正式な記載がなされて世界的に認められた。その名もフタバサウルス・スズキイ。そしてその記載論文の筆頭執筆者が誰あろう佐藤たまき博士。そう、女性古生物学者なのだ。

恐竜大好き少女が女性古生物学者になるまでの自伝「フタバスズキリュウもうひとつの物語」は必読。コープ&マーシュ博士の戦争や、ブロントサウルス再記載を目論む科学者軍団の愛の迷走は非科学的だが、「私が好きになったんだからオスでしょう」と言い、フタバサウルスを勝手に「カレ」と呼ぶ佐藤博士の場合のように、愛が科学を進める原動力になることもあるのだ。感動的ではないか。

しかし、メアリー・アニングのプレシオサウルスにしろ、佐藤たまき博士のフタバサウルスにしろ、なぜ首長竜が女性に縁があるのかとその理由をフロイト的に解釈したりするとそれは本当にセクハラになるからいけません。よろしいか、固く禁じる。やめなさい。はい。失礼しました。

海竜伝説6
名場面(ジオラマベース付)シリーズ「海竜伝説」 

◇ネンドソー的恐竜考
①感覚が追いつかない!
②恐竜は爬虫類ではない!
③そしてジュラシックパーク!
④差別的ゴジラ型(カンガルー型)復元!
⑤アカデミック方面が心配だ!